知っていればその時役立つ話-その3-

36 よく耳にする病名ですが、膠原病とはどんな病気でしょうか? また最近新聞などで話題になることの多い線維筋痛症とはどんな病気でしょうか? マンスリー済衆館だより 希望 第129号(2017年12月号)より まず膠原病という名前の由来を考えてみましょう 膠(にかわ・こう)とは、獣や魚の皮・骨などを水で煮沸し、その溶液 からコラーゲンやゼラチンなどを抽出し、濃縮・冷却し凝固させたもの です。(デジタル大辞泉より)古来、膠は接着剤などに使用されてきま した。 人間の身体は様々な細胞が組み合わさって出来ています。その細 胞同士を結びつけ、臓器の強度を保つ働きをしているのが結合組織 であり、そのなかでも重要な組織がコラーゲンを成分とする膠原繊維 です。この繊維は皮膚、関節、筋肉、血管など全身のいたるところにあ ります。その膠原組織に病変が生じたものを総称して膠原病と呼んで います。 昔より皮膚や関節、肺など全身の臓器に重い炎症性の病像を呈す る患者さまがこれまで知られている病気ではくくれないこと、およびそ の患者群に共通の所見(フィブリノイド壊死と言います)が先ほど述べ た膠原繊維にみられたことから膠原病という疾患群が提唱されまし た。さらに膠原病は、本来なら異物から身体を守るはずの免疫システ ムが正常に働かず自分の身体を攻撃する抗体を作る事が原因とも考 えられているために自己免疫疾患とも呼ばれています。 当初は関節リウマチをはじめとした以下の6つの疾患を膠原病と呼 びました。 ●関節リウマチ ●全身性エリテマトーデス(SLE) ●皮膚筋炎・多発性筋炎 ●結節性多発動脈炎 ●強皮症 ●リウマチ熱 このうちリウマチ熱は膠原病でないことが判明し、現在膠原病から除 かれています。 今回は膠原病内科で診ることの多い関節リウマチと、最近難治性 の痛みをきたし増えつつある病気で話題となっている線維筋痛症に ついてお話したいと思います。 なお、関節リウマチは膠原病ですが、もうひとつの線維筋痛症は膠 原病ではありません。 関節リウマチ(以下リウマチ)の成因と診断 リウマチ(関節“正確には関節を被っている滑膜という膜“の炎症に よる痛み)と線維筋痛症(炎症に因 よ らない筋肉の傷み)、同じ痛みでも その原因は全く異なります。 リウマチの炎症がなぜ起きてくるのか、線維筋痛症の痛みがなぜ 起きてくるのかはまだはっきりと解明されていません。リウマチについ ては自己免疫とよばれる疾患のひとつに位置づけられ、リンパ球など の細胞やサイトカインとよばれる自らが分泌した物質による関節の破 壊が起き、その結果関節の変形や、なかには肺など全身が侵されるこ ともあります。 線維筋痛症の成因と診断 「脳が勝手に痛みを作り出している」と表現されることもある疾患 で、日本人女性に非常に多い「肩こり」「腰痛」の延長線上にある疾 患と言われています。 成因はおおまかに下記の3つにくくることが出来ます。 ●炎症(風邪、インフルエンザ、肺炎などの感染症やリウマチ、膠 原病などの全身性炎症性疾患や気管支喘息・アレルギー性鼻 炎などのアレルギー性の炎症) ●腫瘍(がん、良性腫瘍など)性疾患 ●老化(動脈硬化による脳梗塞、心筋梗塞) 最近ではその3つではくくりきれない病気として ▲生活習慣病(糖尿病、肥満、高脂血症、痛風) ▲メンタル(心療内科)的疾患 の2つがあります。 線維筋痛症の診断はこれまでに炎症や腫瘍ではないことがはっきり しています。また小児にも線維筋痛症患者さまが少なからずおられま すので老化が原因とは言えません。 私の経験から言えば、リウマチの発症後に線維筋痛症を併発する 患者さまはめずらしくありません。一方線維筋痛症発症後にリウマチ を併発する患者さまは診た経験がなく、それゆえにメンタルとの関連 性が強く疑われます。また肩こりと腰痛の延長線上に位置づけられる ため生活習慣病と無関係とはいえません。 治療 リウマチの治療薬の中心はMTX(メトトレキサート)ですが、リウマ チの治療に革命的変化をもたらしたといわれるのが生物学的(バイ オ)製剤です。当院においても、❶TNFアルファという関節炎を惹起 する物質の作用を阻害する薬剤❷IL-6という関節炎を惹起する物 質の作用を阻害する薬剤❸リンパ球のひとつであるT細胞の働きを 鈍らせることで関節炎を抑え込む薬剤の3剤がリウマチ患者さまに使 われています。その昔、ステロイドと鎮痛剤でしかリウマチの治療が出 来なかった時代とくらべると、バイオ製剤が多くの患者さまへの福音と なっていることは紛れもない事実ですが、MTX、バイオ製剤いずれも 免疫抑制剤であるため重篤な感染症のリスクがあり、高齢者など感 染に弱い患者さまへの使用は慎重に行う必要があります。が、問題点 もいくつかあります。 *生物学的(バイオ)製剤の問題点* 1)高額なためリウマチの好発年齢である若年から中年の女性がその 恩恵を十分享受できているとは言い難いこと。 2)いずれのバイオ製剤でも3人から4人に1人は有効ではないこと。 3)多くのバイオ製剤はMTX(メトトレキサート)を併用しないと十分な 効果が得られないことと同時にMTXは使用できない患者さまも少 なくないこと。の3つです。 線維筋痛症の治療薬は Ⅰ)末梢神経障害性の痛みに使われる薬剤 Ⅱ)一部の抗うつ薬 Ⅲ)睡眠導入薬 Ⅳ)神経痛緩和薬 Ⅰ)は第1選択として多く使用されていて末梢神経障害性疼痛にき わめて有効とされるおくすりです。線維筋痛症以外にも糖尿病性神 経障害や帯状疱疹後神経痛などさまざまな疾患で使われています。 ■東洋医学的観点から 東洋医学では病気の内因を「飲食(飲み物と食べ物)七情(おお ざっぱにストレスのこと)」に求めており生活習慣改善とストレスマネー ジメントはすべての疾患の管理に不可欠です。 また東洋医学的には「冷えは痛みに通じる」「通じざればすなわち 痛む」と言い、体を冷やさないこと、便通を整えることが大切といわれ ています。甘いもの(白砂糖はからだを冷やす作用が強力なため)や 冷たいものの取りすぎは好ましくありません。 ■線維筋痛症と運動療法 そのほか線維筋痛症には運動療法が有効であり、患者さまは動い ている間は痛みが少ないといいます。しかし本当に体調が悪い時には 動くことすら困難で、むしろ比較的体調の落ち着いているときにいか に運動を生活に取り入れることができるかがカギといえるかと思いま す。 以上、簡単な解説ですが皆様の参考になれば幸いです。もし、これら の病気でお困りであれば専門外来にてご相談ください。

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