知っていればその時役立つ話-その3-

32 認知症が手術でなおる?かも・・・ マンスリー済衆館だより 希望 第125号(2017年8月号)より 特発性正常圧水頭症(iNPH)は「治療により改善する認知 症」として知られています。iNPHが疑われる患者さまは現在 30万人以上いることがわかっています。これはパーキンソン病 の約2倍にあたります。アルツハイマー病からすると少ない割合 ですが、決して無視できる患者数ではありません。 ただし残念なことに、iNPHという病気は今まであまり注目さ れていませんでした。そして、診断・治療されないままになってい ることが多いのです。 主な症状は歩行障害・認知症・尿失禁で、三徴候と呼ばれ ています。これらの症状の改善が得られて本人の自立が高ま れば、介護の負担も軽減され、患者およびご家族のQOL(クォ リティー・オブ・ライフ:生活の質)の向上を可能とします。なかに は、劇的に症状が改善するケースもあります。 最近の研究によってiNPH病態の解明がかなり進んできまし た。日本では2004年5月に「特発性正常圧水頭症診療ガイドラ イン」が諸外国に先駆けて発行、2011年に改版が発行、さらに 安全な診療が追求されています。今日では診断技術や専門医 療用具も格段の進歩をとげています。精度の高い診断による外 科的治療(髄液シャント手術)によって、非常に高い割合で症状 の改善が得られるようになってきました。今やiNPHの診断と治 療は様々な医学的活動を通して、欧米をはじめ日本においても 活発になってきています。 診断について ❶症状診断 主に脳神経外科や神経内科などの外来にて行われます。 専門医師によって、患者の歩く様子を注意深く観察したり、同 伴のご家族からお話をうかがったりしてiNPHの三徴候、歩行障 害・認知症・尿失禁をとらえます。そして歩行障害の程度を測定 したり、認知症の有無・程度を調べる検査を行い、尿失禁につ いては本人あるいは同伴者に問診で確認します。 ❷画像診断 施設により頭部CTもしくはMRI検査を施行します。一般的に は脳室(脳の中の脳脊髄液がたまっている場所)が大きく見え るものを水頭症と呼びますが、脳の萎縮によってそのように見え たり、逆に大きくなさそうに見えても脳室、くも膜下腔の大きさの 不均衡により水頭症の病態となっている場合があるので、専門 的な診断が必要とされます。 ❸脳脊髄液検査 症状や画像診断によりiNPHの可能性が高いと思われた 場合、画像検査ではあまりはっきりしないが、病歴や症状から iNPHが疑われた場合などに脳脊髄液を排液する検査(TAP テスト)を行うことがあります。検査後に症状が一時的に改善す る場合があり今後の治療方針をたてることができます。また脳 脊髄液に病原になるものが見つかる場合もあります。 施設により外来で行ったり、入院検査で詳しく調べることもあ ります。済衆館病院はその診断に力を入れており、TAPテスト は入院検査で行うことにしております。 治療について 特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)は、髄液の流れを良くす る治療によって、症状が改善します。この手術を髄液シャント術 といい、脳神経外科で施されます。髄液シャント術には主に以下 の方法があり、iNPHの髄液シャント術においては、2つの方法 のうちどれでも目的を果たすことができます。 これら髄液シャント術は過剰に溜まった脳脊髄液を他の体腔 へ流すことにより、障害されていた脳の機能を戻すことができま す。このときに、歩行障害や認知症、尿失禁といったiNPHの症 状が改善されるのです。中には、劇的に改善する患者さまもい らっしゃいます。 最近のiNPH治療では、腰椎-腹腔シャント(L-Pシャント)が主 流になりつつあり、幾多の研究によってL-Pシャントの有効性と 安全性が検証されています。一番のメリットは、頭部を処置する 必要がないということです。手技による頭蓋内出血のリスクが なく、頭部の剃毛の必要もありません。しかしながら腰椎の変形 などが強い場合にはL-Pシャントを実施できないこともあります。 L-Pシャントの手術手技も工夫が重ねられ、より患者さまに負担の 少ない手技が開発されています。術後の24時間は患者さまを 十分な観察下におきます。頭部と腹部にガーゼを当てて、縫合 部位を覆い、感染から患者さまを護ります。術後に脳室、クモ膜 下腔の大きさの変化を診るために、CTスキャンあるいはMRIを 行います。一般に患者さまは10日前後の入院を必要とします。 退院後にも術後の状態と症状の改善をチェックするために医師 が指示するように定期的に健診することが必要です。運動技能 の回復を図るためにリハビリなどの補助療法を勧められることも あります。(iNPH.jpから改変) 済衆館病院では認知症と特発性正常圧水頭症(iNPH)の 鑑別に力を入れております。ご心配であれば脳神経外科の専門 外来(完全予約)を受診してください。もともと認知症と診断さ れ治療していても鑑別は可能です。かかりつけ医を受診されて いる場合は紹介状をご持参ください。 V-Pシャント術 NHK きょうの健康公式サイトより 髄液シャント術 ずいえき 腰椎 ようつい L-Pシャント術 脳室

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