知っていればその時役立つ話-その3-

27 抗菌薬 コウキンやくって何? 抗生物質 コウセイぶっしつってどんな薬? 「抗菌薬」は使い方を間違えるとその薬は、自分や周囲の方々にもいずれ効かなくなります ―合成抗菌薬と天然抗菌薬(抗生物質)のお話です― マンスリー済衆館だより 希望 第120号(2017年3月号)より 今回は日常診療で使用されている抗菌薬について お話しします。「抗菌薬」ってあまり聞き慣れない用 語ですよね。「抗生剤」と言えばおわかり頂けると思 いますが、厳密には抗菌薬が正しい呼称です。ヒトや 動物に感染する(体に入り込む)病原体には細菌、ウイ ルス、真菌(カビ)、原虫、寄生虫などがあり、抗菌薬 は細菌を殺したり(殺菌)、弱めたり(制菌)する薬剤で す。また、「抗生物質」とは青カビが産生するペニシ リンなど、微生物が作る物質(天然抗菌薬)を本来は 指し、完全に化学的に合成された物質(合成抗菌薬) を総じて抗菌薬と言います。(図1) 抗菌薬には図1のように多数の系統が存在し、重 複はありますがそれぞれ標的とする菌種が異なりま す。この抗菌薬の守備範囲はスペクトラムと呼ば れ、感染症によって原因菌がそれぞれ異なるため、ス ペクトラムを考慮して抗菌薬が使用されます。 清潔好きな日本人の気質のためか、わが国は抗菌 薬の使用量大国となっており、これまで安易にかつ 大量の抗菌薬が使用されてきた結果、耐性菌(抗菌 薬が効かない細菌)の問題が生じています。鼻腔、気 道、消化管内などにはもともと少数の耐性菌が常在 していますが、抗菌薬に感受性がある(抗菌薬が効 く)細菌群によって増殖が抑えられて均衡が保たれて います。そこに抗菌薬が使用されると感受性のある 細菌が死滅、あるいは減少するため、ここぞとばかり に耐性菌が増殖して様々な臨床症状を引き起こすこ とになります(菌交代現象:図2)。耐性菌が感受性菌 にあたかもバトンを渡すように遺伝情報を伝達して、 感受性菌が耐性菌に変化するメカニズムも知られて います。 メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)は菌交代現象 で増加する代用的な菌のひとつです。また、広いスペ クトラムを有するカルバペネム系抗菌薬に対する耐 性を持つ細菌(カルバペネム耐性腸内細菌;CRE)や バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多種の抗菌薬に 耐性を持つ多剤耐性菌も近年問題になっています。 これら耐性菌が検出されると抗菌薬の使用が極め て限定されてしまうか、あるいは使える抗菌薬がなく なってしまうため、感染症の治療が極めて困難にな ります。 抗菌薬は細菌に対する薬剤ですから、ウイルスに はまったく効果がありません。ですから、ウイルス感 染症である風邪やインフルエンザの患者さまには、原 則として抗菌薬は使用しません。わが国ではこれま で長きにわたって風邪の患者さまに抗菌薬が使用され てきたという悪しき歴史があり、これは諸外国から 観れば異常なことなのです。ただし、血液疾患、悪性 腫瘍、免疫抑制状態、糖尿病、高齢の方など、風邪 を契機とする二次感染症で重症化が予想される患 者様に対しては例外的に抗菌薬を併用することがあ ります。 当然のことながら薬剤ですから、抗菌薬には種々 の副作用があります。最も代表的な副作用は皮疹・ 咳嗽・喘息症状・鼻汁などのアレルギー症状、菌交 代現象による下痢です。重度のアレルギー反応が起 これば、アナフィラキシーという危険な状態に進展 する場合があります。また、多くの抗菌薬は肝臓で代 謝され、胆汁や尿中に排泄されるため、肝機能や腎 機能異常がある方に使用する場合には、使用する量 や間隔を調節する必要があります。 今回は少し重い話になってしまいましたね。抗菌薬 の開発によって感染症の治療は飛躍的に進歩し、重 症例の救命率も上昇しました。しかしながら、これら の薬剤は上記のとおり諸刃の剣でもあります。当院 では薬剤科と院内感染対策委員会の主導により、院 内の抗菌薬使用量を常にチェックしています。より適 切で安全な抗菌薬の使用を目指して、当院ではこう いった取り組みを今後も続けて行きたいと考えてい ます。 感受性菌 耐性菌 抗菌薬 たたかれた菌 平常時 耐性菌の増殖 薬の効果が 効きにくい状態 体内の常在菌の環境 耐性菌 感受性菌 抗菌薬の 使用 通常であれば増殖することのない耐性菌(細菌)が、 抗菌薬の影響により急増することを菌交代現象といいます。 図2 菌交代現象 天然抗菌薬(抗生物質)1~11. 合成抗菌薬12~14. 図1 β-ラクタム系 ・ペニシリン系 ・セフェム系 ・カルバペネム系 ・モノバクタム系 ・ペネム系 アミノグリコシド系 リンコマイシン系 1. 2. 3. ホスホマイシン系 テトラサイクリン系 クロラムフェニコール系 マクロライド系 ケトライド系 ポリペプチド系 グリコペプチド系 ストレプトグラミン系 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. キノロン系 ・ピリドンカルボン酸系 ・オールドキノロン系 ・ニューキノロン系 サルファ剤 ・葉酸代謝阻害剤 オキサゾリジノン系 12. 13. 14. 抗菌薬の種類 感受性菌 耐性菌 抗菌薬 たたかれた菌 平常時 耐性菌の増殖 薬の効果が 効きにくい状態 体内の常在菌の環境 耐性菌 感受性菌 抗菌薬の 使用 通常であれば増殖することのない耐性菌(細菌)が、 抗菌薬の影響により急増することを菌交代現象といいます。 図2 菌交代現象 天然抗菌薬(抗生物質)1~11. 合成抗菌薬12~14. 図1 β-ラクタム系 ・ペニシリン系 ・セフェム系 ・カルバペネム系 ・モノバクタム系 ・ペネム系 アミノグリコシド系 リンコマイシン系 1. 2. 3. ホスホマイシン系 テトラサイクリン系 クロラムフェニコール系 マクロライド系 ケトライド系 ポリペプチド系 グリコペプチド系 ストレプトグラミン系 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. キノロン系 ・ピリドンカルボン酸系 ・オールドキノロン系 ・ニューキノロン系 サルファ剤 ・葉酸代謝阻害剤 オキサゾリジノン系 12. 13. 14. 抗菌薬の種類

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