知っていればその時役立つ話-その3-

18 この3月に西館4階に緩和ケア病棟を設立しました。 マンスリー済衆館だより 希望 第111号(2016年6月号)より 最近緩和ケアという言葉を良く耳にします。当院では約9年前 から緩和ケアチームを作り活動を開始しましたが、この度やっと3 月より新たに緩和ケア病棟を開設しましたので、緩和ケアについて 分かりやすく説明します。 そもそも緩和ケアとは何でしょうか? WHO(世界保健機関)の定義によりますと、「生命を脅かす疾 患に伴う問題に直面する患者と家族に対し、疼痛や身体的、心理 社会的、スピリチュアル(宗教的、精神的、超自然的)な問題を早 期から正確にアセスメント(評価)し解決することにより、苦痛の予 防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上させるためのアプロー チ(目的に近づく)である。」と定義されています。 つまり緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に伴う痛みをはじめとす る身体のつらさ、気持ちのつらさ、生きている意味や価値について の疑問、療養場所や医療費のことなど、患者さまや家族が直面す るさまざまな問題に対し援助する医療のことです。従来、緩和ケア は看取りの医療と捕られがちでしたが、がんと診断された患者さま が可能な限り快適に過ごすために、できるだけ早期からの援助が 重要であると考えられています。 ホスピスおよび緩和医療の歴史を振り返ってみます。 そもそも、ホスピスは中世ヨーロッパの巡礼者、旅人、孤児、病 人貧困者らを温かくもてなす場所でありました。 19世紀には、アイルランドの修道女(マザー・メアリー・エイケン ヘッド)らが、世界初の「死を前にしてすべての人は平等」の考えか らホスピスの原型でもあるホームが誕生しました。1967年には、 英国の(シシリー・ソンダース)によりセント・クリストファー・ホ スピスが誕生しました。1974年には、米国のコネティカット州・ ニューヘブンにホスピスが誕生しました。1977年には、米国にメ モリアル・スローン・ケタリング癌センターにて精神科部門が設立 され、ホスピスの機能を果たしました。1981年には、英国にセン ト・トーマス病院にて緩和ケアチームが設置されました。同年に日 本最初のホスピスが浜松聖隷三方原病院内に誕生しました。その 後、日本各地にホスピスが設立されるようになりました。 つぎに緩和ケアについて詳しく説明します。 1.緩和ケア病棟の理念 *患者さまひとりひとりの希望に添った終末期医療を行います。* 患者さまとご家族の身体的及び精神的つらさに対する支援を行い ます。*地域の医療機関と連携し、患者さまが自宅に帰る手助け を行います。 2.緩和ケアチームとは 一般病棟に入院中の癌患者さまが対象で、医師(身体的症状の 緩和)、精神科医師(精神的症状の緩和)、薬剤師、看護師、臨床 心理士がチームを組んで患者さまの※全人的苦痛(TotalPain) に対応します。当院では疼痛管理を主に、週1回の回診をしていま す。※身体や精神などの一側面からのみ見るのではなく、人格や社会的立場など も含めた総合的な観点からの苦痛 3.緩和ケア病棟とは がんと診断された患者さまを対象とした専門病棟です。患者さ んの全人的苦痛に対処するため、医師、薬剤師、癌性疼痛看護認 定看護師、臨床心理士、理学療法士、ソーシャルワーカーなどいろ いろな職種でチーム医療を行います。当院は20床ですが、4床室 も2室あります。共有スペースは大小2つのラウンジ、ご家族と一 緒に食事をする調理機能の付いた部屋、瞑想室、ご家族の宿泊で きる部屋などがあります。終末期の患者さまとご家族が安心して過 ごせるように考えられています。 4.緩和ケア病棟の治療方針は *患者さまの苦痛(痛みや脱水症状など)を和らげる治療を中心 に行います。*抗がん剤治療、手術は行いません。*胸水や腹水貯 留のため苦痛があれば、ドレナージ(排液)を行います。*肺炎な どの感染症があれば、抗生剤の点滴を行います。 5.がんによる苦痛を和らげる努力をします。 シシリー・ソンダース(セント・クリストファー・ホスピス創設者)が 提唱した、がん患者の※全人的苦痛(TotalPain)とは、何かお話 をします。 1 身体的苦痛…疼痛、呼吸困難、倦怠感、食欲不振など 2 精神的苦痛…抑うつ、不安、焦燥、不眠、せん妄など 3 社会的苦痛…人間関係の悩み、経済的困難、介護困難、社会 的地位、役割の喪失など 4 スピリチュアル(宗教的、精神的、超自然的)な苦痛…宗教 的苦痛(キリスト教徒)、生きる目的の喪失、苦悩など 私たちの疼痛管理の方針は 1 経口投与を基本としますが、貼薬、注射薬もあります。 2 時間を決めて定期的に痛み止めを使用します。(疼痛時のみ の投与ではなく、8時間ごと、12時間ごと、24時間ごとに 使用) 3 麻薬と非麻薬鎮痛剤の併用がより効果的であることを踏ま え、原則として非麻薬鎮痛剤から使用し、効果が不十分なと きに麻薬を併用します。 4 突発痛に対し即効性の麻薬を併用します。 5 麻薬の副作用(便秘、嘔気、眠気など)を軽減する薬剤を併 用します。 6 麻薬には上限がなく、個々の患者さまに合った投与量を決め ます。 以上が緩和ケアの概念です。一番大切なことは、モルヒネなどの麻 薬は決して危ない薬ではないということです。以前よく言われたように “これによって命を縮めるかもしれません”などということはありません し、痛みがある人に投与しても依存性にはなりません。早く痛みから解 放されることにより、精神的にも肉体的にも改善します。たとえ抗がん 剤の治療を受けている時でも使用してかまいません。もしそれによって 痛みが軽減した時は、少しずつ投与量を減らしていけばよいのです。 日本人の特徴として、痛みを我慢する患者さまが多くいらっしゃいま す。しかしモルヒネのような麻薬は、痛みが軽いうちに使用するとより 効果的です。我慢せずに早めに使用することが肝心なのです。また麻 薬のタイプもいろいろあり、長時間作用するものから短時間作用する もの、飲み薬や貼り薬、注射薬などさまざまです。これらを組み合わせ 最適の疼痛緩和を目指します。 誰もが、がんとなり死に至るまで“どう生きていくのか”、特に痛 みから解放されたいと願わない人はありません。そのうえで安寧な 最期を迎えられるよう全力をつくす病棟が「緩和ケア病棟」です。 その必要のある時は思い出してください。 ~緩和ケア病棟スタッフの思い~ 人生の最期は誰にでもいつかは訪れると分かっていながらも、 実際その立場になってみると、とても辛く悲しい出来事です。 私たち緩和ケア病棟ではそのような気持ちに寄り添い、その人ら しい生き方が最期まで全うできるよう心身の辛さを和らぎ、患者 さんやご家族が希望されたときは退院してご自宅で生活できるよ うに努めます。その場合は、在宅医療や福祉サービスと調整を行 い患者さまやご家族が不安なくご自宅で生活できるよう地域の医 療機関とも連携していきます。 今日一日がより良い一日として過ごせるように、私たちは患者さ んとご家族のお気持ちを大切に支えていきます。 ▲病室 ▲ファミリーダイニングキッチン

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