知っていればその時役立つ話-その3-

12 ― この冬、心配な感染症 ― 最近流行が気になるRSウイルス 444 4 4 4ってご存知ですか? マンスリー済衆館だより 希望 第105号(2015年12月号)より このウイルスは、乳幼児の最も頻度の高い呼吸器 感染症の原因ウイルスです。9月から3月までの秋か ら冬にかけて最も流行します。 母体からの移行抗体(赤ちゃんを守る為に母から もらう免疫物質)では感染を防ぐことができず、新生 児にも感染します。1歳までに50-70%が初感染し、 その1/3が下気道炎(肺炎や細気管支炎)を起こし ます。2歳までに小児のほぼ100%が感染し、以後 再感染を繰り返します。 潜伏期間 4~6日間で、鼻汁や咳などにより飛末および接触 感染します。年長児や成人は上気道炎いわゆる風邪 のみで終わることが多いです。乳幼児では1/3が上 気道炎から進行して下気道炎(肺炎や細気管支炎) を起こし、数%は入院が必要となります。 症 状 まず透明な鼻汁が出現し、発熱(多くは微熱)も認め られ、やや遅れて咳が出現します。乳幼児では、その 後、咳が増強し鼻汁も増えてきて、喘鳴が出現するよう になることがあります。特に生後6ヶ月未満では重症 化率が高いです。重症化すると多呼吸、陥没呼吸(呼 吸に合わせて肋骨の間が陥没する呼吸)、無呼吸など を呈することがあり入院が必要になります。(新生児で は無呼吸発作にて突然死をきたすこともあります)早 産児、先天性心疾患、免疫不全などの基礎疾患を有 する人は重症化しやすくなります。合併症として脳炎・ 脳症や中耳炎、低ナトリウム血症などがあります。 乳幼児期にRSウイルスによる下気道炎に罹患後 に長期に渡って喘鳴を繰り返し気管支喘息を発症し てくることがあります。 乳幼児だけでなく、褥婦(産後の女性)や65歳以 上の高齢者でも時に重症化することがあるので注意 が必要です。 検 査 RSウイルス抗原迅速検査(鼻孔に綿棒を入れて 検査します。20~30分で結果が出ます) ただし、検査が保険で認められているのは以下の 条件を満たす人だけになります。 ❶入院中の患者 ❷1歳未満の乳児 ❸シナジスの 適応患者(後述) 治 療 RSウイルスに対する抗ウイルス薬はなく症状に 合わせて適切な水分補給や気道分泌物(鼻汁など) の除去、加湿などの対症療法のみであります。 ただし細菌の二次感染をきたした場合は抗菌薬 の投与を行います。 また喘鳴を伴ったり、気管支喘息の発作の誘因に なっている例には、気管支拡張薬やステロイドの投与 など喘息治療に準じた治療を行うこともあります。 予 防 基本的には手洗いやアルコールによる消毒など風 邪の予防に準じます。 RSウイルス感染時に重症化しやすい高リスク児 を対象に、シナジスという薬を流行期に毎月1回筋肉 注射することがあります。 シナジス適応患者(RSウイルス流行期に) ❶在胎28週以下の早産児で1歳以下の児 ❷在胎29~35週の早産児で生後6ヶ月以下の児 ❸血行動態に異常のある先天性心疾患のある2歳以 下の児 ❹免疫不全のある2歳以下の児 ❺ダウン症候群の2歳以下の児 ❻過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症の治療を受け た2歳以下の児 以上のように一般の成人や年長児ではいわゆる風 邪症状のみで終わることが多いRSウイルス感染症 ですが、乳幼児、褥婦、高齢者、基礎疾患を有する人 では重症化することがあるので注意が必要となりま す。このためここ30年以上前からワクチンの開発が 試みられていますが、重症化しやすい乳児では母か らの免疫物質による影響や乳児の免疫の未熟性な どからワクチンの効果をうまく発現させることが難し いため、現在のところ使用可能な有効なワクチンはあ りません。 高齢者施設での集団感染により重症化した事例の 報告もあり、今のところ手洗いやアルコール消毒など 一般的な感染対策をしっかり行うことが大切です。

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