知っていればその時役立つ話-その3-

11 やっぱりやっかいもの ノロウイルス感染症 マンスリー済衆館だより 希望 第104号(2015年11月号)より 気温が下がり始め、冬が間近となりました。冬と言えばインフルエンザウ イルスとともに、また『アイツ』がやって来ます。そうです、ノロウイルス (以下、NV)です。今回は,このNVにスポットを当ててお話しします。 NVはカリシウイルス科NV属のノーウォークウイルスが正式名称です。近年注目 されてはいますが、実はそれほど新しいものではなく、1968年にアメリカ合衆国オ ハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した急性胃腸炎患者の糞便から初めて 検出されたため命名されました。本項では一般的なNVという名称で説明します。 NVは感染性胃腸炎を起こす病原体のひとつで、感染力が非常に強く、僅か10個のウイルスで感染すると言 われています。NVが付着した食物、食器、調理器具、手指などを介した経口感染が主な感染経路ですが、感 染者の糞便や吐瀉物が乾燥して塵埃となり、それを吸入して感染することも知られています。 感染から発症までの時間(潜伏期間)は12~72時間で、主な症状は下痢、嘔吐、腹痛、脱水症状です。発熱 もみられますが、高熱が出ることは少ないようです。毒性は低いウイルスなので健康な成人では重症化が少な く、多くの場合は通院治療が可能です。抵抗力の弱い乳幼児や高齢者では時として重症化することがありま す。症状が消失後10日~1ヶ月間はまだ糞便中にNVが排泄されます。特別な治療法はなく、水分や電解質の 補給(経口、点滴)、整腸剤などの一般的治療が行われます。 NV性胃腸炎は冬の病気というイメージがありますが、実は年間を通じて発生しています。この病気は予防、 すなわち「ウイルスを口に入れない」ことが大切で、食事の前には石鹸と流水で十分に手を洗いましょう。石 鹸・洗剤やアルコールではNVの殺菌はできませんが、手指に付着したウイルスを石鹸で除去することは可能で す。 また魚介類、特にカキなどの二枚貝の生食を避けること、タオルの共用は避け、可能であればペーパータオ ルの使用が望ましいでしょう。 この病気にかかってしまった場合、最も重要なのは脱水症予防です。食事は温かく薄味のものを摂取しま しょう。食欲が優れなくても、冷たくないスポーツ飲料や経口補水液(OS-1®など)を少量ずつ飲むようにし ます。ただし、スポーツ飲料に含まれる糖分や人工甘味料は下痢を助長することがあり、注意が必要です。 次に大切なことは排泄物の処理です。 ①感染者の排泄物には多量のNVが含まれており、処理の際には必ずマスクと使い捨てのビニール手袋やエプ ロンを着用し、排泄物には決して直接触れないようにしましょう。ゴミは密封して廃棄します。 ②トイレで水を流す際に便中のウイルスが飛散することがあるので、便器の蓋を閉じて水を流すようにしましょ う。十分な換気も必要です。次亜塩素酸ナトリウム(ハイター®、ミルトン®など;以下、SH)を0.1%に希釈して 便座・蓋・スイッチ類や床を拭きます(希釈方法は各製品の取扱説明書を参照下さい)。SHは直接触れると 皮膚を傷害するので、約10分後にスイッチと便座は水拭きします。有毒ガスが発生するので、SHと水以外のも のを決して混ぜないで下さい。 ③リビングなどの床は、ティッシュペーパーやボロ布などで汚染部の外側から内側に向けて静かに拭き取った 後、0.1%SHで消毒します。 ④カーペットにSHを使用すると色落ちすることがあるため、スチームアイロンで2分間加熱します。火災の原因 となるため決してアイロンをカーペットに接触させないで下さい。 ⑤汚れた衣類は85℃以上の熱湯で1分間煮沸するか、0.02%SHに30~60分間浸けます。 ⑥食器や調理器具は通常の殺菌、漂白に使用する濃度のSHで消毒します。 冬の味覚にウインタースポーツ、クリスマスにお正月、これら楽しい行事をNVに台なしにされないよう、手洗 いを習慣付けて予防に努めましょう。 電子顕微鏡像 (Wikipedia「ノロウイルス」より)

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